すっかり春らしくなってきましたね
皆さま、いかがお過ごしでしょうか
●今月の鳥 ヒヨドリ

■冬場、庭の木の枝にリンゴを刺しておくと、メジロ夫妻を追い散らして横取りして独占してしまう、甘いものには目がないヤツである
春になると桜の花に取り付いて蜜を吸うのだけれど、顔中花粉だらけになって必死に吸う姿が何ともかわいい
■鳴き声は、ヒーヨ、ヒーヨと、ちょっと物悲し気ではあるけれど
ちょっと心が疲れているときには
いーよ、いーよ、(無理するなよ)
と聞こえてきて、そうだね、ありがとう、という気持ちになることもある
心に寄り添うやさしいトリさんなのである
●<疲れ>について
■疲れ、だるさが抜けなくて、どうにも動く気になれない時があります
運動のあとのスッキリした感じの疲れとは、少し違います
今回はそういった、だるさを伴う抜けづらい疲れについてのお話です
■「疲れ」はその性質によって、生理学的な【疲労】と、感覚としての【疲労感】に区別されます
【疲労】とは、「疲れ」の原因となる体の障害や機能低下のことで、運動しすぎて筋肉が疲労した、というような生理学的に捉えられるものです
一方、【疲労感】というのは「疲れた」という感じのことで、【疲労】によって活動が低下する感覚。たとえば筋肉の疲労が激しくて、だるく動く気になれない、という「感覚」のことです
われわれが「疲れた~、もう休みたい~」と思う時、体に【疲労】があって、ちょっと休まないとまずいですよ、という信号を脳や意識が受け取って【疲労感】につながる、ということです
【疲労感】は、体からの<休め>というサインなのです
■【疲労】が単純で軽いものであれば、しばらく休息をとれば回復し、【疲労感】は大きく軽減します
しかしながら、それほど疲れることをしていなくても、また、いくら休んでもずーっと抜けない重くだるい状態が何カ月も続く【疲労感】も存在します
その原因と考えられている主な生理現象としては、
・恒常的なストレスや緊張状態が続くことによる炎症性物質の持続的放出
・静かに持続的に継続する慢性炎症による炎症性物質の持続的放出
が挙げられます
■【慢性炎症】とは、発熱・腫れ・痛みを伴う急激で一時的な【急性炎症】とは異なり、だらだらとくすぶり続ける炎症のことです
具体的には、アトピー性皮膚炎・喘息などの自己免疫疾患/肥満・糖尿病などの代謝疾患/動脈硬化などの循環器系疾患/多発性硬化症・うつ病などの神経系疾患/悪性腫瘍などで起こります
■<抜けない疲れ>には、こういった持続的ストレス・緊張状態や慢性病・生活習慣病などによる、じわじわと続く炎症が関わっていることが近年になって分かってきました
こういったはっきりしない、もやもやした炎症を落ち着かせることが<抜けない疲れ>を抑え、その背景となっている慢性疾患の症状をも安定させていくことになり、そのメカニズムの研究が進んでいます
鍼灸治療には、このもやもやした慢性炎症を抑える効果があり、<疲れがとれる>という実感はそこから来ているものだと考えられます
<参考書籍>
・疲労とはなにか ブルーバックス2023 (疲労を感じるメカニズム・遺伝子のはたらきについて)
・免疫と「病の科学」 ブルーバックス2018 (慢性炎症と関連疾患について)
■<疲れ>がとれる日常生活の工夫
■こういった<抜けない疲れ>を自ら改善し、日常生活を快適に過ごすためには、以下の3つがとても大切です
●毎日の適度な運動 : 軽く息が上がる程度、無理なく継続
→ 運動にエネルギーを使うことで慢性炎症やストレス反応を抑える代謝上の効果(※)
朝の体操、駅までの速足や遠回り、いつも階段を使う(一段飛ばし)など、毎日の日常の中で続けられることが良いかと思います
午前中に体を適度に動かすと気力のスイッチが入りやすくなり、やる気も出ます
※「運動しても痩せないのはなぜか」ハーマン・ポンツァー著 草思社2022
― 代謝についての最新科学の本。食事と運動については、また改めて
●しっかり睡眠 : 質と時間の確保、朝、すっきり寝た感じがする
→ 損傷した細胞を修復し、くすぶる炎症を抑えるはたらき
慢性的な睡眠不足を解消できると、体調だけでなく気分もおだやかになり、安定します
朝は光を浴びて日中はしっかり活動、夜は眠気に逆らわず暗く静かな快適な寝具で睡眠をとる、快適な体のリズムを作るのがコツです
詳しくは、下の記事を参考にしてください
■良い睡眠の効果とその取り方について | 相模大野ひよこ堂鍼灸院
●バランスの良い食事 : 腹八分目、色々なおかずをバランスよく食べる
→ 日々入れ替わる体細胞生成・修復の材料であり、エネルギー源。糖質、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラル、食物繊維をバランスよく摂る
体は食べ物で出来ています
すべての栄養素が大切なのですが、特に体の細胞の再生や、免疫や神経伝達、ホルモンなどがはたらく原料になるアミノ酸(タンパク質が消化分解されてできる)も重要です
アミノ酸の中でも体内で合成できない9種類の必須アミノ酸といわれるものがあります
いろいろな食材からのタンパク質を摂って、これら9種類の必須アミノ酸が不足しないようにすることで体の機能や構造が保たれます
同様に、ビタミンやミネラルなど他の栄養素についても過不足がないことが大切です
一つの食材に偏らず豊富な種類をたのしみましょう
(参考)アミノ酸の桶:一番足りないアミノ酸によって機能が制限されてしまうこと
■<疲労感>と栄養素
■<疲労感>についてはエネルギー代謝、神経伝達、免疫機能の観点から以下の栄養が十分とれるようにしてみるといいでしょう
・【ビタミンB1】 糖の代謝が活発化してエネルギーとして使われやすくなる
→糖質(炭水化物)をエネルギーに変える酵素が働くために必要なビタミン。豚肉やソーセージなどに多く含まれる
・【カルシウム】 神経伝達に必須のミネラルで精神も安定
→骨の強さを保つだけでなく、神経の情報伝達、筋肉のはらたきの調整に使われる。チーズなどの乳製品、しらす等の小魚。効率よく吸収するためには日光を浴びることで生成されるビタミンDが必要
・【食物繊維】 免疫がバランスよくはたらくために腸内環境を整える
→ごぼうや海藻類、きのこ類、大豆などに含まれる(腸内細菌の餌となる、いろいろな種類をとって、いろいろな腸内細菌のバランスをとることが大切)
■適度な運動/しっかり睡眠/おいしくごはん は毎回、念仏のように唱えておりますが、今回も結論はおなじです
無理なく続けられる工夫をいろいろ試してみてください
■東洋医学と<疲れ>
■東洋医学では、【五労】という考え方があります
主要な内臓のはたらきである「五臓」の視点で捉えた【五労】は、このようになります(別の考え方もあります(末尾の補足を参照))
【肝労】 「肝」のはたらきが弱る 眼精疲労・筋肉疲労・感情不安定
【心労】 「心」のはたらきが弱る 不眠・動悸・精神不安定
【脾労】 「脾」のはたらきが弱る 疲労感・食欲不振・下痢・思い悩む
【肺労】 「肺」のはたらきが弱る 声嗄れ・喉痛・咳・胸の痞え・疲労感・悲観する
【腎労】 「腎」のはたらきが弱る 腰痛・足腰に力が入らない・寝汗・怖がる
■ここでは、恒常的な精神的ストレス・身体的過負荷や慢性炎症(生活習慣病や慢性疾患、加齢など)によって起こる「疲れ」の症状を、身体の中核的はたらきをつかさどる「臓」(※)が弱るという視点で捉えています
(※実際の臓器である「肝臓」や「心臓」とは異なった概念です)
鍼灸師はこういった考え方も手掛かりにして、目のまえにした患者さんのどの「臓」が弱っているかを考えながら「慢性疲労」にアプローチしていくわけです
それぞれの「臓」のはたらきと病証については、またいつかお話し出来ればと考えています
●<疲れ>に効くツボ
●足三里と曲池の灸
■抜けない疲れ(疲労感)の原因を慢性炎症と捉えるならば、陽明経(手陽明大腸経/足陽明胃経)へのアプローチが欠かせません
防衛機能としての炎症は、体の外界と内部との境目で侵入物を排除する戦いとして起こります
皮膚・呼吸器(手太陰肺経)同じように外部環境と接する消化器系を司る陽明経は、免疫反応と関わり、過剰な炎症をおさめて安定させる働きがあると考えられます
■体表面や粘膜だけでなく、体の深部にある内臓や筋肉、血管、神経などの炎症に対しても、他の経脈の経穴とあわせて陽明経の経穴が必要になる場合も多いです
陽明経が炎症を抑える効果は血管や体液を介してめぐる伝達物質を介して、深部の臓器にも同じようにはたらくと考えられるからです
■炎症を抑える陽明経の経穴は【合谷】や【手三里】などが挙げられますが、自宅で手軽にお灸をするならば、まずは【曲池】と【足三里】がよいでしょう
私も疲労回復・健康維持のため毎日、【曲池】と【足三里】にお灸を据えています
●疲労・だるさ回復に【曲池】/【足三里】
■【曲池】は肘を曲げたところにあり、免疫を整えて過剰な炎症を抑えます
皮膚や目の炎症にも効果があるツボです
<ツボの取り方>
■【曲池】は肘を強く曲げたときにできるしわの先端部に取ります。触れると少し凹んだ感じがするところです「

■【足三里】は、膝の下の少し外側にあるツボです
【足三里】は、昔から養生、長寿のツボとして知られています。
この足三里へのお灸を続けることで、心が落ちつき、しっかり眠れて疲れも取れて元気な毎日を過ごすことが出来る、というところが養生、長寿のツボといわれる所以だと思われます
<ツボの取り方>
■二通りの取穴方法があります
両方の取り方で正確な位置を確かめてお灸をすると効果も上がります
<取穴方法1>
膝のお皿の下の外側にくぼみがあります。(【犢鼻(とくび)】というツボです)
そこから(第二関節部の幅で)指4本分下の筋肉の部分に【足三里】があります。
<取穴方法2>
脛の骨の稜線を下から撫で上げて指が止まるところ、そこから脛の骨の外側の筋肉の中に取ります。

<刺激方法>
■【曲池】【足三里】とも、長生灸や千年灸などで刺激をするのがいいでしょう
ぜひ試してみてください

■今月号の内容は以上です
適度な運動/しっかり睡眠/おいしくごはん
今月も健やかに参りましょう!
それでは、また♪
相模大野ひよこ堂鍼灸院 院長
<補足>
【五労】(肉体的な疲れ)
【久行傷筋】 運動し過ぎると「筋」を傷つけ「肝」のはたらきが弱る 関節・筋肉の痛み、けいれん、体が重い
【久視傷血】 長く見続けると「血」を傷つけ、「肝」と「心」のはたらきが弱る 目のかすみ・充血・乾燥・視力低下
【久坐傷肉】 長く座っていると「肉」を傷つけ「脾」のはたらきが弱る 筋肉の痛み、麻痺
【久臥傷気】 長く臥せると「気」がめぐらず「肺」のはたらきが弱る 息切れ・めまい・無気力
【久立傷骨】 長く立ち続けると「骨」を傷つけ「腎」のはたらきが弱る 足膝の疲れ・関節やかかとの痛み
■久しぶりの運動のあとの筋肉痛や、デスクワークでの肩こり、眼精疲労など現代に直結する見方です
ずっと寝た状態を「休んでいる」と捉えるのではなく、「肉体的な疲労」と同格に捉えているところも核心をついているように思われます

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