■起立性調節障害について(西洋医学的まとめ)
■起立性調節障害・ODとは
・自律神経の不調によって血圧や脈拍数の調節が上手くはたらかず、立ちくらみやめまい、動悸、失神などを引き起こす病気です。(OD:Orthostatic Dysregulation 直訳:直立性調節不全)
■仕組み・原因
・立ち上がったり、長時間立っているときに重力に対抗して血圧を上げる自律神経の調節が出来ず、脳の血流が低下して立ちくらみなどの症状を生じます。
・第二次性徴前の成長期の不安定な時期に、自律神経の成長が間に合わずバランスを崩します。
■特徴
・自律神経のはたらきが未熟な学童期から思春期にかけて一時的に発症し、成長と共に徐々に改善するが、朝起きられないことにより不登校につながるなど日常生活に重大な支障をきたすことがあります。(小学5,6年生から中学生で起こりやすい)
・中学生の約10%に自覚症状、不登校児の3~4割がこの病気だと言われます。
・成長期が過ぎても症状が治まらず成人になるまで続く場合もあります。
・心理的社会的ストレスやホルモンバランスの乱れ、水分や栄養の不足も発症の引き金になるため、大人でも発症する場合もあります。
■症状と悪化要因
■症状
・朝なかなか起き上がれず、起き上がったとしても気分が悪くなったり頭痛がしたりします。
●午前中を中心に現れる主な症状
・ひどい頭痛や吐き気、めまい
・その他、立ちくらみ、倦怠感、動悸、起床時の著しい頻脈(脈が速い状態)など
【特徴】
・朝に登校するときは体調がすぐれなくても、午前中を乗りければ体調が回復、午後には元気になる患者も少なくない
・立ち上がった時や長時間立っているとき、入浴時、精神的ストレスを感じた時に発症しやすい
・寝起きが極端に悪くなったり、食欲不振、顔色不良、倦怠感、頭痛などの症状が続くことによって、日常生活や社会生活に大きな支障をきたす場合もある
・めまい:目の前が真っ黒、もしくは真っ白になる という場合が多い
・立ちくらみ:急に体を動かしたときに一瞬目の前が暗くなる という場合が多い
・大抵の場合はしばらく時間をおいてから、ゆっくり動くと症状が収まる
■発症や悪化の要因となるもの
・水分の摂取量低下:体内の水分量が不足すると血液循環の安定が損なわれる
・心理的ストレス:学校生活などでのストレスを抱えていると、もともと学校に行きたくないという思いがあるうえに体調不良が重なり、さらに悪化する場合がある
・低血圧が多い家系:起立性調節障害を起こしやすくなる可能性がある
・睡眠リズムの崩れ:午前中は活発に動けないが午後には元気が出て夕方には活動的になるため、睡眠時間は確保出来ていても社会生活を送りにくい生活リズムとなりやすい。
・日常の活動量の低下:活動しないことに慣れてしまうため、筋力の低下、自律神経の機能の悪化につながりやすい。(※)
(※)この悪循環を【デコンディショニング】(deconditioning)といい、ディコンディショニングの状態に陥ると生活リズムを元に戻すのが困難になり治療に時間がかかる傾向にある。早期に診断をして適切な治療を開始する必要がある。
デコンディショニングによる悪循環
<日常の活動量低下>→<筋力および自律神経調節機能の悪化>→<下半身への過剰な血液貯留>→<脳の血流低下>→<日常の活動量低下> という悪循環によって身体機能が低下していく状態
■診断
■検査・診断
※ 診断は医師が行うものです。以下はあくまでも参考として、自分で判断はせず疑わしい場合は必ず小児科等の医療機関を受診してください。
【診療ガイドライン】(出展:Mesical Note)
以下の11項目のうち3つ以上に当てはまる場合、もしくは2つ以上であっても他の症状から起立性調節障害が強く疑われる場合は詳細な検査を行う
・立ちくらみやめまいを起こしやすい
・持続的に立っていると気分が悪くなり、ひどくなると倒れる
・入浴時や嫌なことを見聞きしたときに気分が悪くなる
・少し動くと動悸や息切れがする
・朝なかなか起きられず、午前中調子が悪い
・顔色が青い
・食欲不振
・へその周囲にときどき痛みがある
・倦怠感がある、あるいは疲れやすい
・頭痛
・乗り物に酔いやすい
【除外診断】
他の病気でないことを確認する
・心臓超音波検査、心電図:動悸や頻脈の症状がある場合、治療を要する不整脈等の有無を調べる
・画像検査:CT,MRIでもやもや病(脳血管閉塞)などの脳疾患を除外
・血液検査:・鉄欠乏性貧血による立ちくらみを除外
・動悸がある場合には甲状腺ホルモンを検査し内分泌疾患の有無を確認
・脳波検査:痙攣を伴う失神がある場合にはてんかんと区別する
■治療と経過
■治療と対処方法
【非薬物療法】(主となる治療)
・日常生活の改善と工夫が主となる治療となります
・座った状態や横になった状態から起立するときには、ゆっくりと立ち上がる
・起立してじっとしている状態を1~2分続けないようにし、下半身をよく動かす
・1日に水分は約1.5~2L、塩分は10~12gを目安に摂取する
(日本人の平均塩分摂取量:男性11g 女性9.3g 厚労省目標:男性7.5g未満 女性6.5g未満)
・毎日30分程度歩き、筋力の低下を防ぐ
・日中は出来るだけ横にならない
・就寝が遅くならないように心がける(朝は明るい光を浴びて体内時計をリセットし、夜は照明を暗めにして入眠しやすく、日内リズムを作る環境を整える)
【薬物治療】
・非薬物療法を継続できる環境を整えることが目的
・症状が重い場合→血圧を上昇させるミトドリン塩酸塩など
【周囲の理解】
・精神的な弱さや怠けによるものではなく病気であることを理解する。
・患者さんとご家族が協力して治療に取り組む必要があることを理解する
【学校との連携】
・不登校と密接な関わりがあるため、学校の先生にこの病気を理解してもらい、適切な対処方法を共に考えていくことが非常に重要
■症状の経過
・非薬物治療を開始しても、短期間で顕著に改善するケースは多くない
・軽症の場合 :2~3か月で改善の可能性、症状の経過に個人差あり
・中程度の場合:1年後に5割程度、2~3年後に7,8割程度が回復
・重症の場合: 社会復帰に少なくとも2~3年を要する
・4月のクラス替えで環境が良くなると好転するケースもあるが、環境の変化に適応できても体がつらい状態を引きずってしまう場合もある。患者の個性を見極めつつ状況にあった治療を進めていく必要がある
■出展
以上は、Medical Note 市立東大阪医療センター 小児科部長 古市康子先生の記事を参考にまとめたものです。詳しくは以下の記事をご確認ください。
成長期に多い起立性調節障害――病気が起こる仕組みと症状とは? | メディカルノート
【関連疾病】
起立性調節障害と症状が近い<貧血>についてはこちらを参考にしてください
■当院の鍼灸治療―起立性調節障害に対するアプローチ
■治療方針
●頭痛、立ちくらみ、めまい、吐き気等のつらい症状を緩和させる
●自律神経の成長とバランスをサポートし、生活リズム改善を図る
●心を安定させストレス耐性の向上を図る
●慌てて結果を求めると、却ってそれがストレスとなり良くなるものも良くなりません。まずは、週1回程度の施術を2~3ヵ月程度続けて変化をじっくり見ていきます。
■治療内容
●問診と脈診・舌診・腹診などで東洋医学的な診断を行い、患者さんの体質、その時の症状や状態に応じて適切な経穴を決定し、鍼またはお灸を施します。
●体の状態は患者さんにより異なり、また同じ患者さんでも日によって変化し調子の波もかなりあるので施術部位は一定しませんが、成長の源である腰部と気(エネルギー)や血の巡りの根幹である腹部に弱さがみられる場合が多く、【命門・腎兪】(腰部)のお灸と【中脘】(腹部)の鍼は大抵の場合、施術の中心となります。
●毎日自宅で出来るお灸(長生灸)をお勧めしています。
毎日お灸をすることで鍼灸の治療効果も上がり、毎日の生活リズム改善や睡眠を良くすることによる心の安定、さらには食欲が上がり体力の向上にもつながります。
患者さんの体質によって【足三里】か【復溜】のどちらかとなる場合が多いです。
■(参考)治療によく使う経穴
※以下はあくまでも治療の狙いのイメージをつかんで頂くための情報です。
経穴(ツボ)の選定と刺激方法は鍼灸師が施術をすることではじめて効果を出せるものとご承知おきください。
【身体機能(自律神経)のバランスと成長・安定】
・成長を促す・元気をつける 【命門・腎兪】(腰部)【関元】(腹部)など
・停滞した経絡を通し自律神経のバランスを取る【手足の経穴】、【身柱】(背部)など
・消化機能を上げ、元気をつける 【中脘】(腹部)、【足三里】(脚)など
【身体症状の緩和・低減】
・頭痛・ふらつき 【合谷】(手)、【外関】(腕)、【足臨泣】(足)など
・めまい 【翳風】(耳下部)、【風池】(後頭部)など
・吐き気・胸苦しさ 【内関】(腕)、【厥陰兪】(背部)など
・腹痛、だるさ 【中脘】【天枢】(腹部)、【足三里】(脚)、【曲池】(腕)、【膈兪】【肝兪】【脾兪】(背部)など
・元気や気力がない【気海】【関元】(腹部)など
・手足の冷え 【太淵】(手)、【太谿】(足)、【肓兪】(腹部)など
・喉や胸の痛み 【孔最】(腕)、【肺兪】(背部)など
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起立性調節障害の治療には時間がかかります。良くなったり戻ったりを繰り返しながら徐々に良くなっていく傾向にあります。はっきりと効果を実感できるのは2か月から場合によっては半年近くかかることもあります。
慌てて結果を求めすぎず、根気良く、じっくり構えることが大切です。
つらい症状が続き、ご本人もご家族の方も大変かと思いますが、必ず良くなると信じて工夫を重ねていきましょう。
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ここまでお読み頂きありがとうございました。
内容は以上です。
相模大野ひよこ堂鍼灸院 院長
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