過敏性腸症候群について
■過敏性腸症候群・IBSとは
・精神的なストレスや自律神経バランスの乱れなどによって腸のはたらきに異常が生じ、便秘や下痢など排便の異常を引き起こす病気です。
・IBS(Irritable Bowel Syndrome (訳: 過敏な 腸の 症候群(病的な状態))
■特徴
・絶えず下痢が続く、もしくは便秘と下痢を数日ごとに繰り返す。
・腹痛やお腹の張りなどを伴うことも多く、中にはトイレから離れられず日常生活に支障をきたすようなケースも少なくない。
・多くは過度なストレスや緊張などによって引き起こされると考えられている。原因がはっきり分からないケースも多々あり、治療が難しい病気である。
・過敏性腸症候群は検査をしても腸に異常が見られないことも特徴。そのため病気のつらさの理解を周囲から得られず悩みを抱えるケースも多い。
・日本人の10%程度は過敏性腸症候群であるとされる。
■原因・発症メカニズム
・過敏性腸症候群の明確な発症メカニズムは現在のところ解明されていない。
・腸のはたらきは脳からつながる神経と密接に関わっていて、その相互に影響する関係を脳腸相関と呼ぶ。この脳腸相関の異常が過敏性腸症候群の発症に関わっているとするのが現在の見解。
・ストレスや疲れなどによって交感神経と副交感神経のバランスが乱れると腸の動きに異常が生じ、下痢や便秘を引き起こしやすくなる。
・同時に腸の痛みを感じる知覚神経が敏感になることで、お腹の痛みや張りなどを感じやすくなる。
・過敏性腸症候は、感染性胃腸炎にかかった後に発症しやすいことも分かっている。
・微細な慢性炎症によって腸の粘膜が弱くなり、腸内細菌に変化が生じることで腸のはたらきに異常が生じるという説もある。
症状と悪化要因
■症状
・お腹の痛みや張りなどの不快な症状とともに、下痢や便秘などの便通異常が生じる
・症状の現れ方や重症度は人によって異なる
・便通異常の現れ方によって【下痢型】【便秘型】【混合型】の3つのタイプに分けられる
・【下痢型】 ストレスや緊張などのわずかなきっかけによって、お腹の痛みと激しい便意とともに下痢を生じることが特徴。特に通勤などトイレに行けない状況のときに発症しやすいとされる
・【便秘型】 便秘に伴ってお腹の張りなどの症状が起こる。
・【混合型】 便秘と下痢が交互に繰り返されることが特徴
・症状が3ヵ月以上続く場合に過敏性腸症候群が疑われる
・いずれのタイプもストレスや疲れなどがたまると症状が悪化、就寝中や休日などは症状が現れにくい。
・排便すると一時的に症状が改善することも特徴
・多くの人はこれらのお腹の症状や便通の異常とうまく付き合いながら生活しているが、重症の場合には頻回な下痢のため電車に乗れない、外出できないなど生活に大きな支障をきたすことも少なくない。
■発症や悪化の要因となるもの
● ストレスや疲れ
● 睡眠不足
● 運動不足
● 高脂質な食事
● 過度な飲酒
診断
■診断基準
①慢性的な腹痛
②腹痛に伴う排便頻度の増減
③腹痛に伴う便の形状変化
以上の3つのうち2つ以上に当てはまる場合に過敏性腸症候群と診断される。
■検査・診断
・過敏性腸症候群は特徴的なお腹の症状や便通異常が生じるため、特別な検査をせずに問診だけで診断が下されることも少なくない。
・思いもよらぬ腸の病気が潜んでいる可能性あり、重症の場合や治療をしても症状が改善しない場合は次のような検査を行うことがある。
【血液検査】
・血液によって、腸の炎症の有無などを調べる。
・必要に応じて貧血や甲状腺ホルモン値を調べる検査を行う場合もある。
【便潜血検査】
・便の中に血液が混ざっているかを調べる検査。便通の異常を引き起こす大腸がんや大腸ポリ―プ、炎症性腸疾患などの血便を生じる病気を探る。
【画像検査】
・X線検査やCT検査などで腸閉塞などの器質性疾患を調べる。
【大腸内視鏡検査】
・大腸の内部を内視鏡で詳しく観察する。がんや炎症性腸疾患など便通の異常を引き起こす病気が疑われる際に行う。
治療
■治療
・過敏性腸症候群の症状を改善するには、規則正しくストレスや疲れをためない生活を心がけることが大切
・そのため、軽症の場合は治療せずに生活改善を行いながら経過を見ていくケースも少なくない
・生活改善を行っても症状が改善しない場合や症状が強い場合には、症状を緩和させるための薬物療法が行われる
【生活改善のポイント】
● 規則正しい生活
● 十分な睡眠と休息
● バランスのとれた食事
● 適度な運動
● ストレスや疲れが溜まりにくい環境づくり

これらは自律神経を整えるための基本でもあります。お腹の調子を見ながらいろいろ試行錯誤と工夫をして自分に合った生活のポイントを見つけましょう。
その他
■精神的な要因について
・過敏性腸症候群は、精神的な要因によって発症・悪化することが多く抑うつ気分などがあるときは、抗うつ薬や向精神薬などが用いられることもある
・薬物療法でも精神的な症状が治まらない場合は、カウンセリングなどの精神療法が必要となるケースも少なくない
■出展
【出展】:Medical Note 横浜市立大学医学部 医学教育学主任教授 消化器内科 稲盛正彦先生
■関連キーワード
・脳腸相関
・自律神経系(交感神経・迷走神経・内臓感覚神経 腸管神経)
・慢性炎症
・腸内細菌叢
当院の鍼灸治療 ―過敏性腸症候群へのアプローチ―
■治療方針
●お腹の痛みや張り・下痢や便秘の現在抱えている症状の緩和を図る
●精神的緊張や不安を緩め、ストレスによるお腹への影響を軽減させる
●自律神経を安定させつつ内臓の機能を整えることにより、良い睡眠と心の安定によるストレスへの余裕を確保し、消化機能が安定してはたらくように導く

治療中、症状が良くなったり戻ったりを繰り返しながらじっくりと安定していきます。安定するまで3カ月から半年くらいはかかると考えて、根気よく治療を続けることが大切です。
■治療内容
●問診と脈診・舌診・腹診などで東洋医学的な診断を行い、患者さまの体質やその時の症状や状態に応じて適切な経穴を決定し、鍼またはお灸を施します。
●大抵の場合ストレスによる腹部や胸のつかえがあり、【内関】(手首)への鍼を行うことが多いです。
お腹の痛みや張りに対しては【中脘】【天枢】などのお腹のツボや、膝上の【梁丘】、膝下の【足三里】【上巨虚】などへの鍼や灸を行います。
●患者さまには毎日自宅で出来るお灸(長生灸)をお勧めしています。
毎日お灸をすることで鍼灸の治療効果も上がり、毎日の生活リズム改善や良い睡眠による心の安定、食欲や体力の向上にもつながります。
【足三里】にお灸を勧める場合が多いです。
■(参考)治療によく使う経穴
※以下はあくまでも治療の狙いのイメージをつかんで頂くための情報です。
経穴(ツボ)の選定と刺激方法は鍼灸師が施術をすることではじめて効果を出せるものとご承知おきください。
【身体機能(自律神経)のバランスと成長・安定】
・元気をつける 【命門・腎兪】(腰部)など
・停滞した経絡を通し自律神経のバランスを取る【手足の経穴】
・消化機能を整える 【中脘】(腹部)、【足三里】(脚)など
【身体症状の緩和・低減】
・吐き気・胸苦しさ 【内関】(腕)、【厥陰兪】(背部)など
・腹痛、下痢 【中脘】【天枢】【大巨】(腹部)、【陰市】【梁丘】【足三里】【上巨虚】(脚)、【手三里】【曲池】(腕)、【膈兪】【肝兪】【脾兪】(背部)など
・便秘 【支溝】(腕)など
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過敏性腸症候群の治療には時間がかかります。
完全に良くなる場合もありますが、状況によって症状が戻る場合もあり完治にこだわると一喜一憂してしまい、それ自体がストレスになってしまいます。
それよりもまずは症状が安定して生活上の苦痛や不安がない状態を目指すことが肝要です。
根気良く、ご一緒にじっくり治療を進めていきましょう。
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ここまでお読み頂きありがとうございました。
内容は以上です。
相模大野ひよこ堂鍼灸院 院長
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